【第4章】日本のeスポーツの課題と今後の展望

第4章 日本のeスポーツを成長させていくためには

 

 前章では、なぜ日本はeスポーツ後進国なのか、その理由について論じた。この章では、この先の日本のeスポーツを成長させていくには、課題をどのように解決していけば良いのか、実際に行われている改善策の紹介と、筆者の考えを述べていきたい。

 

第1節 eスポーツについての正しい知識の周知

 

 日本でeスポーツが成長していくための前提条件として、eスポーツについての正しい知識を周知していく必要があると考える。流行語大賞のトップテン入りを果たすほどにeスポーツという言葉は知られているが、具体的にどのような競技をどこで行っているか理解している人は未だ少ない。

 そういった現状を打開するため、日本eスポーツ連合は、国内各地に活動拠点を設置してeスポーツの普及と発展・振興を図っている。2019年12月時点の拠点数は、北海道から鹿児島まで合計10拠点で、2020年1月には新たに11拠点が活動を開始する。最終的には47都道府県すべてに拠点を設ける予定であり、地域のeスポーツ普及のために尽力している。

 

第2節 法規制に対する対応

 

 前章の第2節では、法規制によるeスポーツの大会開催のハードルの高さについて述べた。この節では、その法規制に対して、どのように対応していくのか、対応策を述べていく。

 

 

(1)景品表示法

 景品表示法上、ゲーム会社が顧客(ゲームタイトルを購入したユーザー)を主な対象として金銭を提供する場合であっても、それがゲームの購入に基づくものではなく、大会への出演という仕事に対する対価として提供される場合(「仕事の報酬等」に当たると認められる場合)には、当該金銭の提供は景品表示法上の上限額の規制を受けないと考えられる。そのため、日本eスポーツ連合は、選手の活動が仕事であることをプロライセンスという仕組みを通じて明確化し、大会の結果によって得られる報酬が、「仕事の報酬」に該当することを目指した。具体的には、ライセンス選手は、「大会に出場してゲームをプレイすることにより観客を魅了する」仕事を行う者であることを第三者である日本eスポーツ連合が認定と整理することができる。そして、その結果として、大会において優秀な成績を残したライセンス選手に対して行われる賞金の提供は、景品表示法上も「仕事の報酬等」の提供として認められる。

 以上より、プロライセンス制度に基づいて賞金制大会を実施する場合、ゲーム会社による高額賞金の提供が景品表示法上の上限規制に該当することはないと判断できる。この判断に法的な問題がないことは、関係各省庁との意見交換会でも確認済みである。

 しかし、この対応によって解決されるのは、プロライセンスを発行された一部のプレイヤーが受け取る賞金についてのみであるため、アマチュア向けの小規模な大会については対応しきれていない。景品表示法による賞金の上限額を引き上げるなど、さらなる改善が求められる。

 

  • 刑法(賭博および富くじに関する罪)

 

 刑法上の賭博は、「①財物を賭け②その得喪を争うこと」の条件をどちらも満たしていないと該当しない。つまり、どちらか片方の条件でも当てはまっていなければ、それは刑法上賭博とは判断されない。参加者から参加費を徴収したとしても、その参加費を賞金に充てなければ、「財物を賭ける」ことには当てはまらないため、賭博には該当しないと考えられる。   

ここで参考になるのは、ゴルフの賞金制大会である。ゴルフの賞金制大会は、参加するプレイヤーから適切な金額の参加費を徴収し、それを大会の運営費用として使う。参加プレイヤーが「その場でプレイする」サービスを得るための対価として金銭を支払っているため、財物を賭けていることにはならない。賞金は、別途第三者であるスポンサーから提供される。そのため、賭博には該当しない。

 以上のことから、eスポーツの大会も、ゴルフの大会のような方式にのっとって開催すれば刑法上の問題はないと考える。

 

 

 

第3節 より大きな利益を生み出すには

 

 eスポーツの収益構造は、スポンサー収入が全体の74%を占め、その他は低い割合になっている。つまり、伝統的な競技興行が確立している収益を生み出す手法が十分に実現できていないのである。裏を返せば、まだまだ伸びしろがあるということである。実際海外では、eスポーツ専用のスタジアムを作り、そこで大会を行うなど、観客入場料収入や放送権収入で大きな利益を挙げている。競技興行においては、土地や建物がファンを引き付けるための大きな要因となり得る。「スタジアム」がファンにとっての聖地となり、そこでプレイする選手たちへの愛着を生み出す。プロ野球におけるフランチャイズ(地域保護権)やサッカー、バスケットボールにおけるホームタウン制度はこの愛着を生み出すための仕組みである。日本のeスポーツも、「聖地」と呼べるような場所を作り、ファンの定着を目指すべきである。

またeスポーツには、伝統的な競技にはない、「ゲーム内のアイテム課金」という収益項目がある。これには大きな成長可能性がある。Valveが運営する『Dota2』は、ゲーム内課金の収益の一部を大会の賞金へプールしている。これにより、大会の賞金額が跳ね上がり、より大規模な盛り上がりが見られている。日本でも、ゲーム内のアイテム課金による収益の一部を、賞金へプールしたり、eスポーツ関連施設の建設費用に充てれば、大会の規模拡大や、eスポーツ自体のファンの獲得にも繋がると思われる。

 

 

第5章 まとめ

 

 日本のeスポーツは、未だ発展途上であり、世界と比べれば大幅に取り残されていると言わざるを得ない。しかし、知られ始めたのがここ数年であることを考えると、市場の拡大や成長のスピードは驚異的である。認知度の低さや、法規制による制限など、課題も多く残っているが、日本eスポーツ連合をはじめとする各団体の働きや、ファン層の着実な増加によって、日本がeスポーツ大国として世界に名を連ねる日もそう遠くないだろうと思う。今後も、eスポーツに関わる人々一丸となって、eスポーツは新しい形のスポーツであり、健全なものであると強調し、より早く世間に認められるよう、努力をしていかなければならない。

 

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  • 発売日: 2019/04/10
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